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『トオリヌケキンシ』加納朋子


トオリヌケ キンシトオリヌケ キンシ
(2014/10/14)
加納 朋子

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☆☆☆☆
内容紹介
人生の途中、はからずも厄介ごとを抱えることになった人々。でも、「たとえ行き止まりの袋小路に見えたとしても。根気よく探せば、どこかへ抜け道があったりする。」(「トオリヌケ キンシ」より)他人にはなかなかわかってもらえない困難に直面した人々にも、思いもよらぬ奇跡が起きる時がある――。短編の名手・加納朋子が贈る六つの物語。
(収録作品)
高校に入ってから不登校・引きこもりになってしまったある少年。ある日彼の家に、一人の少女がやってきた。少女はかつて少年に助けてもらってもらったことがあるという――。『トオリヌケ キンシ』
「ある形」を見つけてしまう能力以外はごくごく平凡な女子高生。そのふしぎな力を生物の先生は「共感覚」と分析した……。『平穏で平凡で、幸運な人生』
やさしかった母がある日豹変、家の中でいじめられるようになってしまったタクミ。つらい日々の救いは、イマジナリーフレンド(想像のお友達)の存在だった。『空蝉』
人の顔が識別できない――「相貌失認」の「僕」は、高校入学を機にそのことをカミングアウトする。あろうことかその後「僕」はある女の子から「好きです」と告白される。不思議な始まりの恋の行方は? 『フー・アー・ユー』
長く連れ添った夫人を突然に亡くし、気落ちする亀井のおじいちゃん。家の中でひとりのはずが、ある日「座敷童がいる」と言い出した!『座敷童と兎と亀と』
前日に高熱を出して受験に失敗した「俺」は、ある場所に引きこもり、自分でコントロール可能な「明晰夢」を見る日々を過ごしている。そんな中で出会った女の子「ミナノ」、彼女は夢だったのか、それとも?『この出口の無い、閉ざされた部屋で』。
大好きだ。加納さんの描く世界。
今回は、どの作品にも、病気や障害や変わった能力だったりを背景に持った人たちが出てくる。

「トオリヌケキンシ」・・50センチほどの壁と壁に挟まれた空間。この札をみて「じゃあ通り抜けてみよう」と思った少年。行き止まりの右手の古ぼけた家は話したことのない同級生の少女あずさの家だった。
あずさと少年のちょっとした関わり。
その後、少年は引きこもりの高校生。そこに、アズサがたずねてくる。そして、小学生の時の話。アズサが場面緘黙症だったこと。声が出るきっかけになったのが少年だったこと。

「たとえ行き止まりの袋小路に見えたとしても。根気よく探せば、どこかへ抜け道があったりする。目の前を塞ぐ扉は、硬貨一枚で開いてしまったりもする。それがどこへつながっているかは誰にもわからないことだけれども。(本文P34)

「平穏で平凡で、幸運な人生」・・少女には不思議な力があるらしい。共感覚の持ち主。それを教えてくれたのは高校の若い生物の先生、葉山先生。彼女は視覚からの情報の刺激が、声、という形で音が誘発されているらしく、だから彼女だけに聞こえる声で呼ばれてすぐに見つけづらいものを見つけてしまえるらしい。夏休み、先生は大好きな昆虫に合いに夢だった中南米へ。少女が前髪を切ろうとして広げた新聞に先生の名前が。コスタリカの旅客機墜落事故でなくなった日本人一名。それから10年少女は結婚し平凡なお母さんに。0歳児をつれて3人で沖縄へ。ところが借りたレンタカーごと、赤ちゃんを誘拐されてしまう。車に置き忘れた須磨穂のGPSをたよりに追いかけると、CM取りのために7千台もの車が集められている場所。赤ちゃんが熱中症になっちゃう。そんな焦りの中特定するためには・・そこで彼女の共感覚が活きるんだな。

「驚き、呆然とし、我に返ったその後で、私は猛然と行動に移った。あの憎むべき誘拐犯もそうだったけど、恋する女は無駄にエネルギッシュでアクティブなのだ。(本文P77)
しあわせな恋の物語でもありました。
自分の特殊能力を何かいかせないかなあと思っていた少女は、平凡で幸せな家庭を守るために使って、それはとてつもなく幸運な未来に向かってるって感じることの出来るもの。

「空蝉」・・ミステリー色が一番強かった。そういうこと?って最後の驚きが一番。
幼稚園の年長の頃、優しかったお母さんが急に変わってしまったこと。誰にも見えないらしい友だちのタクヤがいう。お母さんは化け物に食べられて、偽物なんだと、このままじゃお前は死ぬ、あいつに殺される。やっつけよう、と
その後を生きてる僕。大学生。父が新しいお母さんだよ、と義母を連れてきてから十数年。覚えているのは、母から逃げて階段を駆け下りたすぐ後に、凄まじい悲鳴とともに落ちてきた母。階段の上にほほえむタクヤの姿。そこから記憶はすっぽりと抜け気がついたら小学生になっていて、やがて新しい母が来た。
「何かあったらオレを頼れよ」と唐突にいう大学で知り合った1年上の滝本さん。
そして、家に帰って自室に向かおうとしたときに聞いた机を両手でバンと叩き付ける音。昔の記憶にパニックになって逃げ出すオレ。頼ったのは滝本さん。それから明かされることは・・びっくりが二つ
お母さんの病気にもびっくりだけど、滝本さん自身についてが。

いや僕以上に、酷い幼年時代を過ごしてきた。けれどそんな過去なんてどこ吹く風、蝉が土中から這いずりだして脱皮するみたいに、見事に共を生きている。抜け殻が踏みつぶされようが、そんなことには頓着しない。陽気に、にぎやかに、今を生きている。(本文122)

「あー、もしおまえがかわいい女の子だったらなー。すげードラマチックじゃね?絶対これって恋が生まれるシチュエーションじゃね?それがなー、こんな貧弱小僧じゃなー」(本文122)

「フー・アー・ユー?」・・相貌失認、顔の識別ができない高校生の佐藤君。クラスの友だちも先生も見分けがつかないってそりゃあ大変だ。
そんな佐藤君が告白された。佐藤君に見えるのはのっぺらぼうの彼女鈴木美華さん。いい感じで付き合う二人。水族館でのデート。鈴木さんは友だちのアユといっしょに来る。
「ねえ、あの子がどうして佐藤君に告白したか、教えてあげようか?」
「え?」
「佐藤君なら絶対言わないでしょ?ブス、とか。不細工、とか」
「・・・・・え?」
(本文P148)

鈴木さんは醜形恐怖。ただ一人、佐藤君だけは平気だった。相貌失認だって知る前から。それを聞いて改めて付き合って下さいっていう佐藤君。なんだかこの二人はとってもかわいい。自分に自信のないでも優しい心の二人。

アユちゃんにもしかけが。すっかりだまされた。でも相貌失認の佐藤君はだまされないんだな。

とってもカワイイらしい美華ちゃんの顔は、相変わらず眺めの前髪と不細工眼鏡で入念に隠されている。自分を良く見せる努力もほとんどしてないらしい。
だけど美華ちゃんはもう傷つかない。誰が笑おうと僕は笑わないことを知っているから。
 僕だけは、絶対に彼女を傷つけない。そして彼女は必ず僕を見つけてくれる。
(P165)

「座敷童と兎と亀と」
亀井のおじいちゃん、どうも家の中に出るみたいなんで、うちにきてもらえないだろうかって兎野さんをたずねてくる。亀井さんは奥さんを亡くしたばかり。恐がりの兎野さん、高校生の息子の大介を連れて、おじいちゃんちへ。そこには本当に小さな3歳くらいの女の子がいて。おじいちゃんは気づかずに、何日もくらしていたらしい。
おじいちゃんは脳梗塞の後遺症で半側空間無視、という状態ではないかと、大介の凄く頭の良い友だち情報。
見つけた子供用のリュックから母子手帳や保険証とともに珊瑚の指輪。実はこれはおじいちゃんがおばあちゃんに送ったもの。家出して死んでしまった息子が少女の母親にやったらしい。兎野さんは母親探し。美容師だとわかって、客になってそこへ行き、彼女が今の夫に暴力を振るわれているらしいことに気づいた兎野さんは、とにかく会いにきて、と伝える。

おじいちゃんちがとっても幸せになりそうで、兎野さんちも、こまごまといろいろあったとしても幸せで、日々家族でくらしていけるってことの幸せが伝わる物語でした。

「この出口のない閉ざされた部屋で」
伊東君は大学受験の直前に、熱をだし、悪い方へ悪い方へ転がっていき部屋から一歩も出ることが出来ない状態。
かれは、夢だけがここからの脱出路だと夢をコントロールしてやりたいようにできる明晰夢を見ようとしている。
一歩も出られなくなるちょっと前、そこいらを探索しているときに出会った少女ミナノ
宇宙飛行士になりたかったミナノ。なれなくても、宇宙について学んだり、その周辺の仕事についたり、恋もしたい。彼が薬でもうろうとしている間に、彼女は逝ってしまう。そして伊東君が退院したら渡して下さいと、渡された愛の告白手紙。

この物語、伊東君の所に頻繁に見舞いにくる友人は兎野大介くん。で「座敷童と〜」で大介がいう、「マジ神レベル」で頭がいい友人が伊東くんだったんだね。大介のお母さんも凄いお人好しでいい人だったけど、大介もいい奴だわきっと。

老病死はすべての人間に等しく降り掛かるというが、それは完全なる間違いだ。
芽生えて間もない双葉が引き抜かれることもある。美しく花弁を広げようとしている花が摘まれることもある。青々とした若木が切り倒されることだって、やはりあるのだ。
かくも世界とは、不平等で不合理に満ちている。
昼と夜のように。夢と現のように。彼女と俺の生死はくっきりと分かれてしまった。
なぜそうなったのか、俺にもわからない。諦めて、逃げて、投げてばかりの俺だったのに。
理不尽でもなんでも、ミナノは死に、俺は生き残ってしまった。去り際、彼女は俺に呪いをかけた。未来に向けて、生き続けねばならないという呪いを。(本文253〜4)
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1 Comments

藍色

こんな病気があるんだ!と驚きました。
作者の闘病体験が色濃く出ていると思いました。
久々に読みやすくいい短編集で、よかったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

  • 2017/11/21 (Tue) 11:06
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  • 2017.11.21 (Tue) 10:50 | 粋な提案