FC2ブログ

『ライフ』小野寺史宣


☆☆☆
内容(「BOOK」データベースより)
アルバイトを掛け持ちしながらひとり暮らしを続けてきた井川幹太、27歳。気楽なアパート暮らしのはずが、引っ越してきた「戸田さん」と望まぬ付き合いがはじまる。夫婦喧嘩から育児まで、あけっぴろげな隣人から頼りにされていく幹太。やがて幹太は自分のなかで押し殺してきたひとつの「願い」に気づいていく―。誰にも頼らず、ひとりで生きられればいいと思っていた青年が、新たな一歩を踏み出すまでを描いた、胸熱くなる青春小説。
幹太を中心に関わる人たちがちょっと見える、といった
深い関係性を持たない日常が退屈なくらいに淡々と描かれていく。
ただ、人と人との薄い関係の中にも温かな視線があるのが心地よい小説となっている。
中心となるのは、戸田さん一家との付き合い。
上の階の人なので、足音が響いて、地震が来たのかと思う程の音も立てるので
幹太は密かにがさつくん、とよんでいる。
ワンルームでひとりしか住めない契約になっているはずなのに、小さな子どもが二人、とママらしい女性も来るようになって益々音はうるさくなるのだが、
この子どもとのトラブルで戸田さんの部屋に呼ばれ、関わるうちに
子どもを預けられたり、一緒にご飯を食べたり、夫婦の事情もわかってきたり。
幹太が騒音の文句を言ってやろうと思っていたのに、言わなくてもいいな、と変わっていくのだけれど
コミュニケーションとって見ると、前と気持ちが変わる事ってある
それにしても、音がうるさいという事、ずっと後なんだけれどすごくいいタイミングで伝えられたなと思う

この小説、浮気が結構キーワードになってて
主人公の父親も、そしてこの戸田さんも。
戸田さんの子どもたちは可愛いし、ママも一生懸命で、戸田さんもそんなママを尊重してる
別居中ではあるけれども、再生のための別居。

幹太は仕事は就職した所を2つもやめて今はコンビニのアルバイトなんだけど、図書館へ行って帰りにおばあちゃんのやっている喫茶店「羽鳥」でコーヒーを飲ながら読書をする、といった落ち着いた生活で、
やりたい事をみつけられないままの自分に焦りがないわけではないけれど、それに突き動かされては行けないとも思っている。

幹太の周りにいる色んな人たち
隣にすむ書評家を志すライターの中条さんや
反対側の隣人で演劇をやって女優を目指している坪内幾乃さん
お母さんが前同じコンビニで働いていたと声をかけてきた近くの高校二年生郡くんは父の転勤に母親が着いていって一軒家に一人暮らし。同じ学校の棚橋ちよりがバイトの時間まで郡君の家にいたりする。彼から
「一度したら、もうカレシカノジョなんですかね?」と聞かれて
「この子が僕の彼女ですとすんなり言えるなら、そのときはもう彼女になってる」そう答えながら
大学時代の彼女は僕の彼女ではなかったなあと気づいたり。

中条さんの両親が片付けにきていて、聞くと中条さんは亡くなっていた
そして気づく。
「僕は中条さんの事は何も知らない。ただの隣人なんだから当然だ。
でも僕は自分の最も近くにいた人たち、両親の事さえ、ほぼ何も知らない。」
(235)
幹太は死んでしまった今はいない父を知るために動き出す

傍観者だった幹太が〜したいって動き出すラストは、じんわり良かった。

関連記事
スポンサーサイト



0 Comments