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『八月の銀の雪』伊与原新


☆☆☆☆
内容(「BOOK」データベースより)
不愛想で手際が悪い―。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた驚きの真の姿。(『八月の銀の雪』)。子育てに自信をもてないシングルマザーが、博物館勤めの女性に聞いた深海の話。深い海の底で泳ぐ鯨に想いを馳せて…。(『海へ還る日』)。原発の下請け会社を辞め、心赴くまま一人旅をしていた辰朗は、茨城の海岸で凧揚げをする初老の男に出会う。男の父親が太平洋戦争で果たした役目とは。(『十万年の西風』)。科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。
私たちは、揺るぎない科学の中にいるのなだあ
知らなくとも。
人との関わりで産まれる理不尽さや、
無理解や自分への情けなさや不安に
心折れそうな時でも
そこにある確かな大きなものの存在は
自分を力づけてくれるものなのだと
この作者の紡ぎだす物語を読むと
そんな事を感じて、
遠くを見ようって思ったりする。

心が弱っている時に科学の世界に出会った人達が
心が開いて人生が好転する場面が描かれて、どれもほんとにいい。

「八月の銀の雪」
理工学部の大学生堀川は、コミュニケーションが極度に苦手で大学も1年休学し、
就職活動もうまくいかない。
趣味で段ボールロボットの制作をしていて
これがとても可愛い。
だけどこういうのをうまくPRできない人なんだよね。


堀川がよく行くコンビニの外国人アルバイトの女性グエンは
度々客とトラブルを起こし、ののしられている。

グエンは一流国立大の留学生で国際留学プログラムに選ばれて月18万円の奨学金が支給され地震研究所に所属している。
そんな彼女が名前を偽ってコンビニで働くにはわけがあって・・

地球の真ん中には鉄球の芯がある。それがわかったのは1934年だそうで、意外と最近
宇宙に行くようになっても、地球の事だって人はあまり知らないのだ。
グエンは言う

その内核の表面は高さ百メートルもある鉄の木の森。
その森には鉄の決勝のかけら、銀色の雪が降っているかもしれない
それは積もって固まって、内核は大きくなる


使えないコンビニ店員だと思ったグエンは実は研究に熱心な大学院生で
その真ん中は家族思いの彼女がつまっている。

人は何重にもなっていて
それは自分も同じはず。

ダメだと言われる部分もあるかもしれないが
その人の知らない私もあるはずで。
なんて、ほらやっぱり励まされてる。

「海へ還る日」
2歳9ヶ月の娘をひとりで育てている果穂。
果穂は自分に自信がなくひたすらマイナス思考の女性だ。
電車内で席を譲ってくれた高齢の女性に誘われ
上野の自然史博物館へ。
彼女はそこで定年後も学術的な研究に使う生物画を描いていて
果穂は彼女のクジラの絵に引き込まれる

クジラの歌のこと
ニューロン数が人より倍以上多いクジラのこと
ボイジャーのゴールデン・レコードに録音されたザトウクジラの歌
ヒト山(陸の世界)とクジラ山(海の世界)という進化の考え方

網野先生のクジラの話は楽しかったな。

「アルノーと檸檬」
再開発のためにアパートの住人の立ち退き交渉を命じられている不動産管理会社の正樹
実家は広島県の檸檬農家だが
役者を目指した正樹は後継ぎを嫌い家出同然に上京し劇団に入る
結局20年実家には戻っていない
彼が担当する住人の寿美江の部屋のベランダに足環のあるハトが舞い込み
昼間はどこかに出かけるが毎日ちゃんと戻ってくるという。
足環には「アルノー19」と書いてある。

伝書鳩について
その帰巣本能の強さ
地磁気を利用するだけではない空間情報の記憶力。
新聞社で使われていたこと

アルノー19が探していたのは・・

「玻璃を拾う」
珪藻を並べて作品を作る野中と
失恋の痛手から抜けきらない女性

0.1ミリもないような
すごく精巧な殻
それを何ヶ月も書けて並べていく

珪藻ってそうやって集めるのか
川の岩についた藻を歯ブラシでこそげとり
その歯ブラシをコップにためた水で濯ぐとその中に珪藻が含まれているらしい。

「珪藻美術館」見るとその美しさに驚きます。


「十万年の西風」
気象学のもと研究者の滝口と
原子力発電所の下請け会社を辞めた辰郎

今は気球だけれど昔は凧で気象観測をしていて、今も海上での気象観測に使われる事もあるとか。
9000メートルまで上がった事があるとか


原発の再可動

簡単には捨てられない。迷いながらも、その度に言い訳を見つけ出し、決断を先送りにして、使い続ける(226)

地震によって生じた配管の不備。その報告を上司は日付を1日前に、と命じる。地震で痛んだのはまずいから。
どうしても受け入れられず、会社を辞めた辰朗。
彼の中で、起きるはずがない、からいつかどこかで起き得ることに変わった瞬間

使用済み核燃料が原料のウラン鉱石と同程度に下がるまで10万年。
フィンランドの使用済み核燃料を埋める予定のオンカロ。

風船爆弾のこと・・水素ガスをつめた気球に焼夷弾と爆弾を吊るし放つ。
アメリカに到達したものもあったんだってちょっと驚き

その人の状況に関わる形での社会的な問題の盛り込まれ方もよかった。
シングルマザーの子育てのしんどさ、社会の目の冷たさ
日本への入国ビザをとるための斡旋業者の悪質さ
立ち退き交渉の嘘つきさ加減
ネットの著作権問題
原発問題

参考文献の多さに、科学だなあって改めて
ちゃんと調べて書かれた物語なのだと。
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