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『夜の声を聴く』宇佐美まこと


☆☆☆☆
よろず相談も受けているリサイクルショップ「月世界」。そこを手伝う定時制高校に通う堤隆太は、些細なトラブルを解決していくが、いつしか数年前に起きた未解決の一家殺人事件の謎に巻き込まれ……。驚愕の書き下ろしミステリー。
隆太の回想で始まる
その始まりは不穏
公園で向いのベンチに座っていた女がいきなり手首を切り
隆太の方に歩み寄ってきて
血塗れたカッターを差し出してくる。

女は救急車で運ばれ、隆太は傷害の嫌疑をかけられ警察署へ。

隆太に傷害の嫌疑がかけられている事を知って警察署に謝りにきた男は
定時制高校の教師で、女はクラスの生徒だという。
隆太は中学2年生の時から学校に行っていない
18歳になっても孤独で無職で
経済的には恵まれていて
家で本を読みパソコンもフルに使いこなす。
小学生の時に微分方程式を理解する程だったが
学校には居場所を見つけられず
中学生のときは3階の教室の窓から飛び降りた。

リストカットを繰り返す百合子が定時制高校に通っていて
「あそこが私をつなぎ留めてくれる場所だから。唯一定時制だけが」
という言葉を聞いて、
百合子が同類のようにも思えて惹かれて
定時制高校にも興味を持ち1年生に入学する

1年生で仲良くなったのが16歳の大吾。
ハイテンションでしゃべる少年で、家族がいなくて
月世界というリサイクルショップで住み込みで働いている
社長は70代の野口タカエ
月世界は、便利屋も兼ねていて
そこに持ち込まれる、ちょっとした謎解きに二人が関わって解決していく。
この店には時々中矢という刑事が来る

隆太が本やネットで得た知識は多いと思っていたが
この学校に入学して出会う色々な事が
彼の本当の学びと成長に繋がっていく
チャラけているようにしか見えない大吾の心の深い裂け目が見えてきたり。

月世界に持ち込まれるなぞは
カブトムシの幼虫の大量死のなぞ
それが、隣の家の自殺と思われていた男が殺されていた事の証拠を掴むことになったり

旧家の資産家、80過ぎの夫倉本廣之助氏が
「タヌキが庭にやってきて、息子廣紀の子供の頃の姿に化ける」と言う
タヌキはきっと何かを言いたいに違いない。それを聞き取ってもらえないか、
という依頼からは
35年前廣紀が窓から転落した時に、書斎の上にあったというエメラルドを
木の洞から見付け、なぜそこにあったのか、なぜ落ちたのかを解明する
実は廣紀さんは死んでなくて
脊髄損傷で下半身麻痺だが、
物理学の博士号を取得、今はアリゾナの大学で研究を続けている
その彼が東京の大学に併設される研究所に赴任する事になり
隆太はその後廣紀さんとの交流で視界をさらに広げていくことになる

どうという事もなさそうな日常の謎が
意外な展開になって
新たな人との関係が生まれて、という物語の作りがすごくいい

そして
途中挟まれる11年前の家族4人が殺された事件
犯人だと目されていた人物が自殺して終わっているのだが
隆太達が「月世界」を通して関わる小さな事件、出来事が
この大きな事件の解決へと向っていくのだ

暗いものを沢山抱えた物語であるのに
とてもいいラスト
人は変われる、という希望一杯の。
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