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『世界から守ってくれる世界』塚本はつ歌


☆☆☆+
内容(「BOOK」データベースより)
不仲な両親の間で、体と心が2つに裂かれるような痛みを味わう薫子。性的違和を感じ、ある日突然セーラー服で登校し始めるクラスメイトの中鉢。それぞれが抱える戸惑いに互いにシンパシーを覚え、心友となった2人が見つけた「居場所」とは…。暗闇の中、「ありのままの自分」を受け止めてくれる「居場所」を目指し、遠くの光に向かって歩く。14歳の揺れ動く心情を細やかに、そしてユーモラスに描いた、心にあかりを灯すデビュー作。暮らしの小説大賞受賞作!
14歳の言葉にできないもやもやした気持ちが伝わるような主人公の独白文体が
この時期の少女の不安定な心の揺れ、不安を伝える
薫子の両親はけんかばかり。
食器が割れる音、ヒステリックな叫び声
薫子は小さな巾着袋をお守りにベッドへ潜り込み耳を塞ぐ

クラスメイトの中鉢は毎朝薫子に声をかける
切らせてよお、その眉毛、って。
中鉢は夏休み明け突然ホームルームでカミングアウトして
毎日女子生徒の格好で校門突破を試みる
あえなく御用となりジャージとなるのだが、何度失敗してもあきらめない

学校では授業で性の多様性の取り組みがされて

「頭では「多様性」という言葉をタイピングできたとしても、お腹の奥は素直に驚き、呆然としていた」(26)

「いってしまえば、世界の崩壊だった。あたしたちはクライシスに陥った(この言葉は最近のお気に入り)。自分が何者かわからなくなった。無意識に差別的な言葉を出してしまうのではないかと身構えるようになった。自分の言葉がしんじられなくなった。
 その対応策として中鉢への攻撃や排除に至らなかったのは、ひとえに耳年増のおかげだ。「それはダサい」という知識が平和を守ったのだ。見せかけの平和だったかもしれないけど。」
 中鉢は、クラスで孤立したから。
 あたしたちが直面していたのは、中鉢への接し方がどうとかというよりも、いままでどういうものを「普通」としてきたのか、今まで唯一無二だと信じていた世界がどういうものだったのか、なぜ世界がひとつだと無邪気に思っていられたのか、という謎を解く必要だった」

「あたしの体は女で、そこに疑問もないけど、それは一つの形態に過ぎなかったということに、まずあたしたちは驚いていた」
(27)

「あたしたちの集団挫折は、無意味な優越感との戦いでもあった。うっかりすると、受け入れて「あげる」って思いそうになっていた。」(28)

少しずつ明かされる中鉢の両親の、中鉢への拒否と虐待
中鉢がお姉さんからもらったセーラー服を着ている事がばれて
その服を父親に切り刻まれてしまったと聞いた薫子は
財布とパスモ、そしてあの巾着袋を持って
中鉢を連れて家を出る。
薫子がひいおじいちゃんにもらった家へ。
ひいおじいちゃんは薫子が15歳になるまでこの家を保存しておくように遺言を残し
薫子はその鍵を小学生の時にもらっていたのだ。

十四歳のあたしには、もうわかっている

「逃げ場」こそ、ひいじいちゃんからのプレゼントだったのだ。


「先生はねー、僕がどうしても望むならねー、制服の事も含めて、個別に寄り添って対応しますとか言ってくれたらしいんだけどねー」
という中鉢の言葉に怒る薫子
二人で話して行くうちにもやもやした気持ちが形になってくるのだけれど
言葉にできるってとても大切なことだ。

「『どうしても望むなら』っていうのは『お前をオンナノコとは認めないが考えてやってもいい』ってことだ。僕は選別される存在なんかじゃない。認めて下さいって懇願しているわけじゃない。だから悔しかったんだ。そういうことだったんだ」(599

学校ではどちらか、でなければ存在出来ない

「僕はたしかに女の子の持ち得るものが好きだ。でもこれはほんとうに、『心が女だ』って証拠になるのかな」

「ボクは男にも女にもなれない」
「女になれたら、安心出来ると思っていたんだ」
となく中鉢

薫子は女らしくする事を恐れている
他の人がいう女性らしさの中に入る事を。

らしさ、で人をくくることもうやめたい
だってどんな世界もくくられない、グラデーションなのだから。

夜明け始発で帰る二人を
待っていた薫子の母
家出中の父も戻って二人が自分を一緒に探してくれたこと
薫子にとってとても嬉しい事だった
子どもは親に愛されたい、その当たり前の難しさ。
この後の薫子の父の行動がいい。

中鉢が翌日登校してきて
何か変、と感じる薫子によって
中鉢の家での虐待が明らかにされるのだけれど。

虐待される子供たちの
それでも、自分の家族を嫌いになれず
だからその原因は自分にあると考え
黙ってしまう、
暴力の権利を与えてしまう
そんな心を
薫子は自分の頭でかんがえていく
彼女の家も言葉の暴力に満ちているから。


動いてくれる大人達がいる事
でも制度の中でどうにもならないこと


「学校が辛かったら逃げていいんですか。家が辛かったら家出していいんですか。そのせいで高校に行けなくなっても?帰る場所を失っても?なにがなんでも生き抜いたらその先、ちゃんと幸せがまっていますか?」
(165)

ここの所、LGBTの子が主人公になったり性の多様性をテーマにした小説は多いけれど
これほど
多様性を受け入れる、と簡単に言うことの乱暴さ
頭で理解する事と
自分の半径数メートルで起きる時
自分の心がどう反応するのか
を自問させる小説はなかったように思う
「逃げていい」といった先の事を考える事も。
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