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『塚森祐太がログアウトしたら』浅原ナオト


☆☆☆+
「俺は、同性愛者です」
高3のバスケ部エースがSNSでカミングアウト。彼の衝動は思わぬ波紋を広げ……。
ドラマ「腐女子、うっかりゲイに告る」の原作者、待望の最新作。

「登場するすべてのひとの気持ちが胸に迫って、読みながら必死に声援を送りました。たぶん誰もが、この小説のなかに「自分」の姿を見いだせるはずです。」三浦しをん氏推薦!
高3のバスケ部エース・塚森裕太は自分がゲイだとInstagramでカミングアウト。それがバズって有名に。
このカミングアウトが、同じ学校の隠れゲイの少年、娘がレズビアンではないかと疑う男性教師、塚森を追いかけるファンのJK、塚森を崇拝しているバスケ部の後輩へと変化をもたらしていく。そして塚森自身にも変化が表れ…。
作り上げてきた「自分」からログアウトしたら、「本当の自分」になれると思っていた――痛みと希望が胸を刺す青春群像劇。
異性愛者のふりをし続けてきた裕太
自分の名前のアカウントを使い、世界にログインしているという感覚。
ログインしているのは俺じゃない俺。家でも、学校でも。

容姿端麗、バスケットボール雑誌の取材を受ける程の実力、完璧にいい性格
そんな裕太のカミングアウトは
概ね快く受け入れられ、Twitterでバズって多くの人の知る所となり
けれどコメントは好意的なものがほとんど

塚森のカミングアウトで影響をうけ揺さぶられる4人と本人の章で構成される

第1章 同族 清水瑛斗
地味なオタク系のゲイ
このクラスにもゲイがいるんじゃないかなんて雰囲気になったらたまらないと
自分のウラアカウントでバズってるツイートに「こういう自分に酔ったカミングアウト本当に迷惑」とリプライ
すると昼休みに塚森の緊急放送が入る。終了後皆から拍手がわき上がるような完璧さで。
インターハイ出場が決まる決勝リーグを見に行く事に。
ところが塚森の試合での様子がおかしい事に
全然ダメじゃん
カミングアウトして調子落として仲間に迷惑かけて、エースの自覚足りないんじゃない?
なんて話したところに少女がやってきて
ほおを叩かれる
何も知らず考えようともしないヤツが偉そうに語るな、と言い放って。

 思えばずっと、僕は自分のことしか考えていなかた。
自分の承認欲求を満たすために男を漁って抱かれる。カミングアウトした仲間の心情を慮る事なく、自分のような人間のことを考えろといらだちを募らせる。
 分かった。僕は自分を認められないから、自分のことが嫌いだったわけではない。
自分のことが好きだから。
自分はもっとやれると信じているから。
だから、なにも出来ない自分を認められなかったのだ。
(56)

あいつと僕は違う人間だ。だから、あいつはあいつにできることをやり、僕は僕にできることをやるしかない(55)

第2章 教育社、小山田貴文
『はじめまして!レズビアンの中学生です!・・・・」という今年14歳になる娘華のツイートを見つけた父親は高1のクラスを受け持つ教師。
その事を知ったのは半年前
触れず騒がず、スタンスをとってきたが、3年生の塚森のカミングアウトのことを娘に聞かれしらばっくれるが
娘の力になろうと動き始める
FacebookにLGBTを知るのにいい本はないかと問いかけ
それを同僚の梅澤に「どういうつもりだ」ととがめられ
梅澤がバスケの顧問であるため、塚森くんと話す機会をくれないかと頼み込む

小山田は真面目だし、家族愛もあるのだけれど勘違い言動が危なっかしい

妻が華の事を知っていて一言も自分に言わなかったことに怒る小山田に妻は

「どうして喜ばないの?」
「ひとりぼっちで苦しんでいたと思っていた華が、実はそうではなかったと分かったのに、華を救いたいあなたはどうして喜ばないの?」

「華を認めてやりたいなんて、都合のいい嘘を言わないで。あなたは自分が華に認められたいだけ』
(102)

第3章 ファン、内藤まゆ
まゆは去年のインターハイの準決勝の試合を見て以来の塚森のファン
カミングアウトがあっても自分はファンで、つきあいたい訳ではないから、何も変わらない、と思っていたけれど・・

第4章 後輩、武井進
第1志望の高校のバスケ部がインターハイに出る事を知ってその試合を観に行きその時2年生で出場していた塚森裕太のプレーに魅せられ神さまがいる、と虜になり、バスケ部に入る
けれどカミングアウトにショックを受け、どうしても受け入れられない
そんな気持ちでいる所にキャプテンの阿部先輩(悟志)は
「このチームを背負う人間としてはっきり言う。塚森裕太を認められないなら、この部にはいらない』

塚盛先輩といっしょにいたくないけど、塚森先輩と一緒にバスケがしたい。どうしてこんなぐちゃぐちゃなことになるんだ。あんたがそんな風に生まれてくるから。(206)

自分とワンオンワンをやって欲しいと塚森に頼んだ武井は実力の差を見せつけられ
思わず言ってしまう
「未来、子どもが同性愛かどうか出産前に判別出来るようになれば、そう言う未来だったら腹の中で殺されてましたよ」と。

第5章 当事者、塚森裕太
インターハイ予選決勝リーグ1戦目の勝利の後、悟志とマネージャーの彩夏にカミングアウト
そのままインスタ投稿
友人達にも家族にも受け入れられたが
カミングアウトした先にある「本当の俺」って何だろう?と考えるようになる

俺は自分をさらした。「塚森裕太」からログアウトした。なのに、なぜだろう。見ず知らずの人間から大量の反応がついたカミングアウトを眺めていると、写真も文章も俺ではなく「塚森裕太」のものに思えて仕方がない。(256)

梅澤先生には本当の俺を覗かれているような気持ちになる

見透かされている。「塚森裕太」を貫いて、梅澤先生には「俺」が見えている。俺自身にも見えていない俺梅澤先生の目にはちゃんと映っている。
怖い。
覗かれたくない
(271)

勝てると思った。だからカミングアウトしたのだ。
 だけど甘かった。対戦相手は自己嫌悪、勝利条件は自己肯定。そう気づいてしまった以上、もう俺に勝ち目はない。だっておれはその戦いに勝てないから、塚森裕太を作ったのだ。誰からも愛されるスペックの高いアカウントを作り、ログインして生きながらえた


塚森のカミングアウトを切っ掛けに
登場人物たちの自分を見つめる、心の逡巡が書き込まれて
やがて、それぞれの人生を歩みだそうとする各章のラスト

昔に比べて性的指向に理解のある社会になってきているとは思うけれど
それでも、カミングアウトが及ぼす影響は大きくてしんどい。
それがどうした、ってくらいになったら、楽なのになあ
性的指向なんてその人らしさを示すいろんなもののうちの一つでしかないのに
カミングアウトしなければって当事者が苦しくならない社会
LGBTQ、当たり前の社会になるのはいつ?

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