fc2ブログ

『君の名前の横顔』川野裕


☆☆☆
夫を亡くし、小学生の息子・冬明を一人で育てるシングルマザーの愛。父親の死後、義母の愛と弟の冬明を見守りながらも、家族という関係に違和感を持つ大学生の楓。 「世界の一部を盗む」想像上の怪物・ジャバウォックを怖れ、学校に行きたがらない冬明に二人は寄り添おうとするが、「紫色の絵具がなくなったんだ。ジャバウォックが盗っちゃったんだよ」と冬明が告げた日から、現実が変容していく。 ジャバウォックの真実を知ったとき、あなたもきっと、その怪物を探し始める――。 家族とは、常識とは何かを問い直す、壮大でまったく新しい傑作小説。
物語の構造が複雑で
登場人物それぞれの視点で書かれた事をあわせながら
ようやく、少しずつわかってくる。
さいごの最後まで核心はわからなくて、それが読み手を惹き付ける
でも最後にわかった時に
5年前裏切られた少年の大きな傷と、怒りと、憎しみと、諦めとが大きく胸に迫ってくる
3人のお互いを思いやる心も。


現実の世界にファンタジーが混じっていくような
ジャバウォックというのは「鏡の国のアリス」に登場する詩に登場する怪物だそうで
主人公楓の親友千守が「ジャバウォックは『昂揚した議論のたまもの』なんて風に訳されている」という。
ネットの世界での攻撃が「昂揚した議論のたまもの」に通じ巨大だけれど実体のない怪物のよう。
5年前楓の父が建築士として関わった顧客が不満と抗議のブログを書いて自殺
その後、その記事を紹介する記事がSNSで急激に広まり、大きな怒りのエネルギーとなって父も自殺
父が死んだ後もしばらく攻撃は続き
愛さんは名字を戻し、引っ越しをする。楓にも三好という名字になる事を提案したが、楓は父の姓の牧野のままを選ぶ。
楓は愛と冬明との距離に慎重な感じ。家族の捉え方に迷っているような。
「生まれたときから決まっているものより、あとから自分で選び取った関係の方が、意味があるんじゃないかな」
だから血のつながった家族、というより自分にとって大切な人、という関係にしたい、というような。

千守は5年前のTwitterの書き込みからアカウント名「キササギ」の隣に書かれたユーザー名が「jabberwock」となっているのを楓に見せる。このアカウントが積極的な発言をして楓の父親のことを大問題としていったことを。
冬明が言い出したものを消してしまう怪物の名が5年前の父の死と関係あるユーザー名に出てくるのはなぜか、という興味にかき立てられ読むスピードも増していく

愛と楓と交互の視点で語られていき、後半冬明の視点でも語られる。

愛は工務店で営業をしている。
10歳の冬明がある日絵の具が一つなくなった。ジャバウォックが盗んだ。と言い出した。
愛は仕事と家事で手一杯のシングルマザー。
20歳の楓は5年前に亡くなった夫の連れ子で8歳から一緒に暮らしている。
仕事は楽しく、大沢(おおぞう)さん一家との成約も間近。
大沢さんの希望にあいそうな土地を見つけて
予算の擦り合わせをし、契約
その日サポートしてくれていたとなりのデスクの園田さんに突然プロポーズされるが断る。
ところが翌朝、大沢さんが希望していた「見晴らし」のよい土地だったはずの所にマンション建築計画があって
その計画概要書がデスクに置かれていた。
展望を優先していた大沢さんにきちんと説明出来ていないから謝罪し望むなら契約は白紙撤回しとうと上司松岡にいうが許されない。
その後あるブログを見せられる
土地購入で説明義務違反の被害に遭いました、という。
松岡はマンション建築計画の事を大沢さんに話したのでは?と疑い、愛は園田さんが書いたのではと疑う。
休みを取るように言われ
冬明を連れて動物園に行った日の翌日
冬明が消える


有住(ありす)は楓の名前を思い出せない初恋の相手。苗字の下の名前がどうしても思い出せない
楓が「鏡の国のアリス」を読んだのは有住に「読んでみて」と差し出されたから。
その有住が公園で冬明と会って「ジャバウォックはコウヨウしたギロンのタマモノ」だと教えたらしい。
楓が冬明になぜジャバウォックという言葉を知っているのかを聞くと「楓から聞いたんだよ」とでもその日を思い出せない、ジャバウォックに盗まれちゃったのかも、という

突然女の子が走ってきて「久しぶり」
その子は有住で水曜日にここに来てとメモを楓に渡す
彼女はジャバウォックに名前を盗まれた、という

有住との待ち合わせ場所は以前図書館だった場所。ジャバウォックのいる世界
その本だなにあるのはジャバウォックに盗まれた盗難品のリストだという。
でも背表紙にタイトルは見えない
けどその中に1冊だけ読める本の名前が見つかる
「バールのようなもの」
中に書いてある事、読めたのは一行
「それは人の手で、家を買いたいする時に使うものだ」
それは昔父が放置されていた祖父の家を取り壊す時に言ったことば
そして彼が有住に手を引かれ書架の奥の扉を開けると底に広がっていたのは昔住んでいた所の近くの公園
そこからその頃の自宅へ。5年前の父が死んだ日の。
けれど思い出せず、いつの間にか元の世界へ

父親を吊るし上げたキササゲのアカウントの短いツイート
「これ、牧野英哉の嫁でしょ?夫婦揃ってなにしてんの」
そのツイートにのせてあるアドレスにはあるブログ

冬明の視点
有住がこえをかけてきた公園で
有住は名前の半分は残っているので
向こう側(ジャバウォックがいるところ)とこちら側両方に存在するという。
けいれどこちら側で寝たり食べたり恋したりはできない。幽霊みたいなものでだから名前を取り戻さなければならないという。けれど冬明は彼女の名前を思い出す。アリスアズサ
ところがもうこの世にないからその名は他の人には聞こえないという。
翌日楓に「アズを覚えてる?」と訊いても楓にそのこえは聞こえない。
有住に案内された図書館
その館長の話では、色んな世界があるようで、冬明は「有住の名前を取り戻した世界を知りたい」というと1冊の本を渡される。
「砂浜で失くしたティファニーの指輪」
このタイトルは、父牧野英哉と母、愛の出会いの切っ掛けとなったもの
それがなかった事になれば、僕冬明は消えてしまう。けれど別の世界で「僕がいる」という可能性はあるのだからと消える事を決意する。


愛から冬明がいなくなったと電話で楓が目をさますと世界は変わっている
有住の名前がスマホに登録されてあり、父は目の前で朝ご飯の用意をしている

有住もまた、現実世界に戻っていた

誰かが正義を語り、その正義を受け入れられたとき、世界は欠ける。どれだけ正しかろうが、間違っていようが関係なく、とにかく一度受け入れられた正義への反論や検証は許されなくなっていく。ー中略ージャバウォック現象と同じように、ひとつの正義が決まってしまうと、別の正義の可能性は始めからないものだとして処理される。(183)

顔のみえない何人かが「悪だ」と決めたことが、本物の悪として世のなくに広まる。そのニュースに怒りを燃やした人たちが、タップひとつで拡散していく。最初のひとつの悪意が、コピーアンドペースとで増殖する。人々はその悪意を元に熱を帯びた議論を繰り広げて、自分たちが納得できるストーリーだけを信じる。(229)

親が子に名付けることについて
楓の父親はこんな事を言っている
子の名前に何か願いを込めるような事をしたくない
自分の希望より、子どもの事が大事だから。
それは子どもに何も押し付けずにただ愛して育てるということ

私が子に名付ける時も、勇ましいとか誠実とかそういう人になるとかわからないのにそういう印象の名前とかいやだよなーって、できるだけ、性格が見えないようなシンプルで漢字が難しくなくて、響きが良くて、と考えたなーということ思い出した。親が出来る最初のプレゼントだという事はとても意識したな。
関連記事
スポンサーサイト



Last Modified :

Comments







非公開コメント